猫を起こさないように
日: <span>1999年2月18日</span>
日: 1999年2月18日

島本和彦的クライマックス予告・媾合陛下 THE MOVIE

      小鳥プロダクション制作
 路上に寝転がる黒人の酔っぱらいがまぶしさに目を開く。
 「”Wazzat?”(字幕:なんだ?)」
 空から無数の光がニューヨーク市街に舞い降りてくる。
      媾合陛下 THE MOVIE 予告編【映倫】
    ”西暦1999年 突如天空より飛来する無数の天使たち”
 エンパイヤステートビルの後ろから背中に羽根を生やした光に包まれた巨人が姿をあらわす。
 「”Is he an ANGEL?”(字幕:天使さま?)」
 両手を組んで見上げる少女。次の瞬間、巨人の羽ばたきが巻き起こす旋風が林立する無数のビルディングを紙細工のようになぎたおす。少女のマフラーが空を舞う。
    ”媾合陛下衝撃の最終回から八年 小鳥プロダクションが満を持してお送りする今世紀最後の一大官能ロマン”
  不気味に夜空を照らすサーチライト群。首相官邸を取り囲む数台の戦車と無数の武装した兵士たち。
       監督・脚本 小鳥満太郎
       テロップ「首相官邸内」
 「君に私のこの十年の恐怖がわかるか? 歴史からすればそれはほんの取るに足らないわずかな時間に過ぎないのかも知れないが…私は怖かった。私はただ、怖かったんだ」
       音楽 猪上源五郎
 「あなたは政治家として少々ロマンチストに過ぎるようだ。おい」
 「はっ」
 「な、何をする。君、わかっているのか、これは日本国に対する明らかな反逆だぞ」
 「もちろんですよ、総理。ですが反逆する対象である国家そのものが消滅してしまうとしたら、どうします?」
 「き、君たちは、まさか。この、この非国民らめ!」
 「これはまた時代がかった恫喝ですな」
       特技監督 円谷英二郎
 「我々は国家に殉ずるのではないッ! 我々は我々の思想に殉ずるのみであるッ!」
 「狂っている…あれは人間の言うことをききとげるような、生やさしい存在じゃないんだ」
 「知っています。我々が正しいかどうかはすべて後世の人間たちが決めることですよ。おしゃべりな総理大臣殿にはそろそろ歴史の舞台から退場していただくとしましょうか」
 鳴り響く銃声。どさりという鈍い音とともに床に広がる赤いシミ。
     ”彼らがもたらすのは人類への福音か、それとも”
       テロップ「米国ホワイトハウス前」
 演壇を、しわぶきの音ひとつたてず取り巻く数万の人々。演壇にあがり愛しげに人々を見渡す大統領。
 「国民のみなさん、すべては崩壊しました。我々の信じてきた国家という概念も、建国以来我々の誇り高き精神を支えてきた信念も、最後のよりどころである宗教でさえも、あり得る最悪の形で我々を裏切りました。すべては壊れてしまった。もう何の意味も無いかも知れないが、私に言わせて下さい。これは国民のみなさんに選ばれた国をあずかる大統領としてではなく、一人の個人として言わせて下さい。我々はずっと泣き続けてきました。我々の祖先がこの大地を初めて訪れた昔から、我々の幼い乳飲み子に惨めでない居場所を与えてやるためにインディアンたちの頭蓋をふりあげた岩でもって砕き、恐怖をはりつかせた瞳で生暖かにぬめる彼らの脳漿を浴びたその時から、我々はずっと泣き続けてきました。その涙の意味をここに集まったみなさんには知っておいて欲しい。我々は愚かだったが、罪のない人間たちを殺すほど愚かだったが、それでも我々は生きたかった」
 みじろぎひとつしない人々。
     ”滅びゆく営々と築きあげられてきた人類の歴史たち”
 「本日ただいまをもって、アメリカ合衆国の解体を宣言します」
 まろびでた老婆が演壇にすがるように泣き出す。
     ”我らの媾合陛下は襲いくる最強の敵に果たして勝利できるのか”
 左腕を光線に吹き飛ばされながら、自由の女神を破砕しつつヴァギナで大天使ののどぶえを噛みちぎる媾合陛下。
 「おまえの寄越した使徒たちはすべて殺した! さぁ、姿を見せろ、突然降臨し戯れに人類の歴史を幾度も無に帰してきた機械の神デウス・マキーナ、嘲笑する道化の神よ!」
     ”人類の原罪とは、我々の生命の真の意味とは”
 全身から鮮血をしたたらせ、天空に向かって咆哮するその悪魔的な姿。
 「私は人間だ! 私は生命だ! 私は…媾合陛下だ!」
     ”構想五年 総制作費200億 空前のスケールで展開する媾合陛下最後の戦い”
 「クオ・ワディス、ドミネ?(主よ、どこへ行かれるのですか?)」
     ”あなたは最後に何を見るのか”
        媾合陛下 THE MOVIE   
        COMING SOON…
 「(激しいノイズの向こうから聞こえるかすかな囁き)…ラ…ラ…ラヴ…」